学会誌のご紹介

現代ファイナンス/No.5

論文名

3ファクターラティスモデルによる2カ国の金利の確率的変動を考慮した派生商品の評価

執筆者名

高橋 明彦/時岡 毅実

詳 細  
No,1/1999-03
開始ページ:p3
終了ページ:p16

3ファクターラティスモデルによる2カ国の金利の確率的変動を考慮した派生商品の評価
高橋 明彦(コンサルタント)/時岡 毅実**(メリルリンチ証券会社東京支店)

我々は,2カ国の金利及び為替レートを複合的に原資産とするアメリカンスタイルの派生商品を評価するための簡易で計算効果の高い3ファクターラティスモデルを開発した。
今回の我々のモデルでは,金利プロセスとしてHull/White[1990] の拡張Vasicecタイプの瞬間短期金利プロセス,為替レートには対数正規プロセスを使用し,これらの連続プロセスを2項モデルにより離散近似し,初期時点の金利の機関構造及び相関係数を再現するような経路独立型のラティスを構築した。2項モデルの採用により,偏微分方程式の数値解法等と比べ直感的に理解し易くなっており,PC等を用いて容易に実用化できる。さらに,初期時点における金利の期間構造を表現する項と将来の変動を表す項とを分離することによって,金利の変化に対する価格の再評価やデルタ等のリスク計算を行う上での計算効率を向上させた。このモデルを用いることにより,長期の通貨オプション,通貨スワップション,キャップ付きディファレンシャルスワップ,クオントオプション等の複合的派生商品をアメリカンスタイルを含めて評価することができる。数値例として,長期の通貨オプションを評価し,高速に実務上十分な精度を得られることを確認した。
*本論文中の「6.数値例」の作成に必要なプログラミングに関しては,小林貴幸氏(日本興業銀行)の多大なるご助力を頂いた。ここに感謝の意を表したい。もちろん,ありうるすべての誤りは筆者の責任である。
**本論文は,筆者が所属するメリルリンチ証券会社とは無関係に作成されたものであり,本論文に関する一切の責任は,筆者個人のみに属するものである。

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論文名

日本における窓口指導と「バブル」の形成-証言方式を応用した実証分析-

執筆者名

リチャード・A・ヴェルナー

詳 細  
No,2/1999-03
開始ページ:p17
終了ページ:p40

日本における窓口指導と「バブル」の形成-証言方式を応用した実証分析-
リチャード・A・ヴェルナー(オックスフォード大学・上智大学・プロフィット・リサーチ・センター)

金融政策ツールに関する論文のほとんどは,「公式」な政策手段をめぐるものである。しかし,金融当局が民間部門の行動に影響を与える重要な「非公式」の手段が存在する。本稿では,日本の中央銀行が用いてきた金融政策の非公式の手段である,いわゆる「窓口指導」による信用規制の役割を検討する。「窓口指導」は超法規的政策手段であるため,その実施課程の解明には一次的・二次的な現場の証言を活用する。我々は,1980年代後半に実際の「窓口指導」に関与した中央銀行や民間銀行の担当者に直接インタビューを行った。調査の結果判明したのは,一般的な見解とは異なり,「窓口指導」は1980年代を通じて実施され,極めて有効であったということである。バブル時期の銀行貸出量は完全に日銀の信用統制で決定され,不動産向け等の過剰貸出現象は日銀の「窓口指導」の結果であった事も明確になった。最後に本稿では,政策的な意味合いを指摘している。
*インタビューに応じて下さった日銀及び民間銀行の人々には,貴重な時間を割いてこの調査プロジェクトに喜んで参加していただいたことに対して心から感謝したい。研究を手助けして下さった酒井恵子や松原純子とプロフィット・リサーチ・センターのチーム,Rosemary Cooke, Ortwin Gierhake, Dr. Tihomir Katardjiev,谷朋紀,Michael Thonの各氏に感謝する。暖かい支援を下さった貝塚啓明教授,奥村洋彦教授,加々美信光教授,浅野幸弘,Prof. Robert Aliber, John Baldwin, Andy Ellis, 平野純一,Dr. Tim Jenkinson, 金森一雄,Prof. Ghon Rhee, Dr. Florentino Rodaoの各氏にもお世話になった。匿名のレフェリーのコメントのおかげで論文の改善を得た。誤りはすべて私のものである。もしこの小論の中に知恵に富んだ点があるならば,それらはすべて私の信ずる私の光としての神の導きによるものである。

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論文名

企業経営のパフォーマンス指標について-ROEとEVAの批判-

執筆者名

仁科 一彦

詳 細  
No,3/1999-03
開始ページ:p41
終了ページ:p55

企業経営のパフォーマンス指標について-ROEとEVAの批判-
仁科 一彦(大阪大学大学院経済学研究科)

企業経営のパフォーマンス指標として近年広範な関心を集めているROEとEVAについて,標準的なファイナンスの理論にもとづいて批判し,散見される誤解を修正する。両者とも,経営効率や株主利益を測る基準としては不適当であるから,単独でパフォーマンス指標として用いるのは避けるべきである。最も明快なパフォーマンス指標は企業価値であるが,もし金融・資本市場をはじめとする実際の経済条件が不完全であるために投資家が企業価値以外のパフォーマンス指標を要求する場合は,単一の会計数値でなく,複数の情報を利用するのが望ましい。
*原稿に対して貴重なコメントをいただいた,当紙編集者と新潟大学経済学部の斉藤達弘氏に感謝する。

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論文名

ROE、EVAと企業評価

執筆者名

浅野 幸弘

詳 細  
No,4/1999-03
開始ページ:p57
終了ページ:p68

ROE、EVAと企業評価
浅野 幸弘(住友信託銀行)

最近わが国では,企業評価の尺度としてROEやEVAが関心を集めているが,学会の一部には,それらはファイナンス理論からすると不充分な尺度であり,企業価値こそがもっとも適切な指標であるとする批判がある。しかし,企業を適切に評価する,すなわち企業価値を求めるには,ROEないしEVAが不可欠であり,この意味では,それらはもっとも基本的な指標である。また批判論者は,ROEやEVAでは資本コストが簿価ベースの資本に適用される点が問題であると指摘するが,本稿では,簡単なモデルを使って,それはあくまで簿価ベースの資本に適用されるべきことを明らかにする。
*本稿の作成にあたっては,編集者の倉澤資成氏より貴重なコメントをいただきました。お陰でROEについての理解を深めることができましたが,必ずしも意見が一致したわけではありません。本稿はあくまでも筆者の見解であり,ありうべき誤りはすべて筆者の責任です。

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論文名

最近の企業経済学について

執筆者名

谷川 寧彦

詳 細  
No,5/1999-03
開始ページ:p69
終了ページ:p87

最近の企業経済学について
谷川 寧彦(大阪大学大学院経済学研究科)

最近話題になっているEVAという評価尺度は,本来コーポレート・ガバナンス,とりわけ経営者への報酬システム設計における有用性という観点から提唱されたものである。ならば,ガバナンスを論じるのに適切な分析枠組みで議論するのがよい。残念ながら現状では,一般性を持つこうした分析枠組みに関し,どういうものか,標準的な教科書に載るような一致した見解はまだない。ここでは,エージェンシー理論,不完備契約理論,所有権や議決権の分析など,最近の企業経済学を大きく変貌せしめた分析道具を紹介し,伝統的なファイナンス理論が所与としてきた証券の各種特質―所得請求権,投票権や担保請求権など各種権利の賦与形態など―を内生的に導き出すモデルの考え方をレビューする。これにより,ガバナンスを論じえる分析枠組みは,伝統的なMM理論のそれとは違っているかを例示したい。

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