学会誌のご紹介

現代ファイナンス/No.6

論文名

年功序列賃金制度と株式需要-何故、わが国家計の株式需要は少ないのか-

執筆者名

米澤 康博/松浦 克己/竹澤 康子

詳 細  
No,1/1999-09
開始ページ:p3
終了ページ:p18

年功序列賃金制度と株式需要-何故、わが国家計の株式需要は少ないのか-
米澤 康博(横浜国立大学経営学部)
松浦 克己(横浜市立大学商学部)
竹澤 康子(神戸大学経済学部)

本論文では我が国の家計の株式保有比率の低水準の原因を危険回避度の差異に求めるのではなく,より経済制度的な要因に求める。以下では,原因は我が国の年功序列賃金制度,およびその制度の下での企業への見えざる出資(若年期の低賃金を上回る生産に対する貢献価値が強制的に企業に出資させられている)にあることを明らかにする。すなわち,我が国の若年家計は多額の見えざる危険資産を強制的に保有させられているので,見えざる出資がない場合に比べて更なる株式保有を行うことは合理的ではないのである。要するに日本的経営が株式投資を抑制し,より預貯金への選好を高めさせたと解釈でき,われわれの実証分析ではこれと矛盾しない結果が得られている。この結果,年功序列賃金制度に特徴づけられる日本的経営と株式非選好(預貯金の選好)とは制度補完の関係にあると図式化することができる。
*本論文の執筆に当たり金子隆慶応大学教授,小巻泰之氏,大阪ファイナンスフォーラム,東京ファイナンスフォーラムの参加者,レフェリーおよび編集者の浅野幸弘氏より有益な示唆をいただいたことに感謝します。

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論文名

投資機会が変動する場合の最適ポートフォリオについて

執筆者名

本多 俊毅

詳 細  
No,2/1999-09
開始ページ:p19
終了ページ:p45

投資機会が変動する場合の最適ポートフォリオについて
本多 俊毅(横浜国立大学経済学部)

多期間モデルにおける最適ポートフォリオ理論の基本的枠組みはMerton[1969,1971],Samuelson[1969]らによって提示された。ところが,多期間モデルにおける最適解を具体的に求めることが難しいため,一期間モデルでの最適ポートフォリオ理論,たとえばMarkowitz[1959]の平均分散モデルや,Sharpe[1964],Lintner[1965]のCAPMが学会だけでなく実務界にも大きな影響を与えたのに比べると,多期間のポートフォリオ理論が実際に利用されることは少ない。一方で,近年の市場データ分析から,一期間モデルを繰り返し解くことによって得られる解は,多期間モデルの解と異なることが予想される。実際,最近発表されたいくつかの論文はこの予想を支持している。本稿ではこれらの論文の結果をまとめ,多期間モデルの最適解の特徴を探り,今後の発展の方向性を探る。
*本稿の作成にあたり,編集者の谷川寧彦氏と匿名のレフェリーから貴重なコメントをいただきました。もちろん本稿の記述に誤りが残っていれば,すべて筆者の責任です。

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論文名

資産価格モデルの実証研究:展望

執筆者名

堀 敬一

詳 細  
No,3/1999-09
開始ページ:p47
終了ページ:p97

資産価格モデルの実証研究:展望
堀 敬一(立命館大学経済学部)

本稿の目的は資産価格モデルの中でもFinancial Macroeconomicsと呼ばれる分野に焦点を当てて展望することにある。Financial Macroeconomicsは文字通り,マクロ経済学の立場から資産価格あるいは資産収益率を分析する分野であり,そこでこれらの変数は消費と投資と同じくマクロ経済変数の一つとして扱われる。本稿の特徴は計量経済学的手法の展開を中心としているところにあるが,理論的展開と実証研究の結果についても考慮し,以下で述べるような問題について議論している。はじめに資産価格モデルについて基本的な説明を行う。さらに消費資産価格モデル等の具体例を示した上で,これらのモデルが示唆する実証研究上の含意について説明する。次に株価の分散の変動範囲検定,Generalized Method of Moments,割引率の分散が満たすべき制約を検定するテストなど具体的な実証研究の方法について説明するが,日米の資産市場を対象にした実証研究例も併せて紹介される。さらに複数の資産価格モデルのパフォーマンスを比較するための検定統計量が紹介され,消費データに関する問題点も議論する。最後に今後の研究の方針が検討される。
*本稿は第3回日本ファイナンス学会研究観望会,MPTフォーラムでの報告内容を整理したものである。本稿の作成に際して筒井義郎(大阪大学),本多祐三(大阪大学),谷川寧彦(大阪大学),齊藤 誠(大阪大学),倉澤資成(横浜国立大学)の各氏,および本誌レフェリーより有益なコメントを頂きました。記して感謝申し上げます。また本稿は文部省科学研究費補助金(課題番号11303004)による研究成果に基づいている。

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