学会誌のご紹介

現代ファイナンス/No.8

論文名

リスクファクターモデルと財務特性モデルの判別:Fama-French modelの検証をめぐる問題

執筆者名

久保田 敬一/竹原 均

詳 細  
No,1/2000-09
開始ページ:p3
終了ページ:p15

リスクファクターモデルと財務特性モデルの判別:Fama-French modelの検証をめぐる問題
久保田 敬一*(武蔵大学経済学部)
竹原 均**(筑波大学社会工学系)

本研究においては,Fama/French[1993]により提案されたマルティベータモデルがわが国の株式収益率を説明可能であることを再確認した上で,実証結果をもとにベータと株式期待収益率の間に存在する関係について分析を行なう。特にFama-French modelにおいて用いられる特定の財務属性によりソートされたポートフォリオ間のリターンスプレッドがはたしてリスクファクターであるのか,それともDaniel/Titmanが”Characteristics”と呼んだ株式収益率の期待値のみが説明可能で共分散構造は説明不可能な’mispriced factor’であるのかについて焦点をあてて詳細な検討を行なう。
*本研究の実施について平成10年度武蔵大学特別研究員制度から助成を受けたことに感謝する。
**平成9,10年度文部省科学研究補助費(奨励A,課題番号09730076)による研究助成に感謝する。

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論文名

景気循環と実質金利の期間構造

執筆者名

須藤 時仁

詳 細  
No,2/2000-09
開始ページ:p17
終了ページ:p38

景気循環と実質金利の期間構造
須藤 時仁(日本証券経済研究所)

本稿では,1人当たり実質消費(対数変換後)をトレンド部分と循環部分とに分解し,さらに循環部分における拡大と後退局面の非対称性(レジームの変化)をマルコフ・スイッチング・モデルで表すことによって景気循環をモデル化した。この景気循環モデルを,金融資産として債券のみを考えた消費資産価格モデルに組み込むことによって精緻な金利の期間構造モデルを構築し,そのモデルに基づいて80年代から90年代にかけてのイギリスにおける実質イールド・カーブ(残存1年以下のショート・エンド)を実証分析した。その結果,次のことが示された。(1)相対的危険回避度は有意に正で推定され,消費資産価格モデルは支持される。(2)消費循環の拡大と後退局面に非対称性,つまりレジームのシフトは見出されない。(3)イールド・スプレッドには,景気変動自体を予測するために有用な情報はほとんど含まれていないが,その循環部分については弱いながらもその方向を予測するに有用な情報が含まれている。
*本稿の作成にあたり,レフェリーの先生から有益なコメントを頂戴しました。記して感謝いたします。

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論文名

負債比率における規模効果について

執筆者名

太田 亘

詳 細  
No,3/2000-09
開始ページ:p39
終了ページ:p54

負債比率における規模効果について
太田 亘(名古屋大学大学院経済学研究科)

通商産業省企業活動基本調査1996年調査のデータにより,日本の製造業企業について,企業規模,固定資産,広告宣伝費と研究開発費及びキャッシュフローが,負債比率にどのような影響を与えているかについて分析した。固定資産・総資産比率が高いほど,広告宣伝費と研究開発費の合計額の売上高に対する比率が低いほど,またキャッシュフロー・総資産比率が低いほど負債比率は高かった。これらは先行研究と同様の結果である。企業規模について,上場会社に対応する大規模クラスでは,売上高の対数値が大きいほど負債比率が高く規模効果は正であるが,それ以外での規模効果は正であるとは限らないという結果を得た。これは,上場会社と非上場会社とでは,負債比率の規模効果が異なる可能性を示唆している。

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論文名

普通社債の引受競争と発行利回り

執筆者名

松井 建二

詳 細  
No,4/2000-09
開始ページ:p55
終了ページ:p83

普通社債の引受競争と発行利回り
松井 建二(京都大学大学院経済学研究科)

我が国における普通社債の発行市場においては,流通市場の実勢から大幅に乖離するような過小な応募者利回りの設定が行われ,その結果新発債を購入する投資家の利益を損なっているとの指摘がしばしば聞かれる。
本論文では社債発行企業の財務情報を各々独自に把握する証券会社間による過度の引受競争が,発行時の応募者利回りを適正水準から歪めているという想定に基づき,入札競争モデルを基礎としてこの事実を描写する理論モデルを作成した。
またこのモデルを用いて実証的に現実のデータ分析を行ったところ,やはり発行利回りは流通市場での実勢利回りより有意に低く設定されていることが判明し,かつ次の3つの条件のいずれかを満たす銘柄ほど,この傾向が強いことが検証された。第1に格付けの高い銘柄,第2に引受シンジケート団を構成する幹事社数が少ない銘柄,第3に格付けが高く起債額が小さいか,または格付けが低く起債額が大きい銘柄である。
*本論文は日本学術振興会特別研究員制度の助成を受けた一環として執筆いたしました。作成にあたっては,有賀健教授(京都大学),岡村秀夫選任講師(関西大学),成生達彦教授(京都大学),古川顕教授(京都大学),松尾順介助教授(阪南大学,日本証券経済研究所兼任研究員),四塚利樹教授(法政大学),米澤康博教授(横浜国立大学)およびμ(MEW; Monetary Economics Workshop)の皆様にコメントを与えて頂きました。また,星岳雄助教授(カリフォルニア大学)にはオリジナルのワーキングペーパーを送付して頂きました。
これに加え,投稿の過程において,匿名のレフェリーと,編集者である宇野淳氏に非常に有益なコメントを頂き,論文をさらに発展させる事が可能となりました。以上の方々に深く謝意を表します。勿論ありうるすべての誤りは筆者の責任であることは言うまでもありません。
なお,本論文は日本経済学会2000年春季大会にて報告した論文である「企業の財務情報と普通社債の発行・流通市場」を改定したものである。

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論文名

商品流動性リスクの軽量化に関する一考察-ストレステストに焦点を当てて-

執筆者名

吉藤 茂/大嶽 文伸

詳 細  
No,5/2000-09
開始ページ:p85
終了ページ:p113

商品流動性リスクの軽量化に関する一考察-ストレステストに焦点を当てて-
吉藤 茂(東京三菱銀行)
大嶽 文伸(東京三菱銀行)

97年10月のアジア危機や98年8月のロシア危機以来,商品流動性リスクの存在がクローズアップされ,リスク管理の在り方が問い直されている。本稿では,アジア危機発生時における実証研究から,リスク管理上のポイントを整理した上で,ストレステストに焦点を絞った商品流動性リスク軽量化手法を提案する。
本稿での成果は,以下の2点。(1)アジア危機における実証分析から,リスク管理上留意すべきポイントとして,(1)ファットテールな状況の顕現化,(2)相関関係の崩壊(流動性危機の伝播及び流動性への逃避現象),という2点を確認した。(2)Bangia/Diebold/Schuermann/Stroughair[1998]の手法を参考に,(1)”ファットテール調整”に着目した上で,Finger[1997]の手法を応用し,(2)”相関崩壊(相関関係の変化)”も考慮したストレステスト手法を考案した。その際,ファットテール調整係数は複雑系指標を用い定式化することで,その説得力を高めることが出来た。
*本論文作成にあたって,レフェリーより大変有益なコメントを頂戴した。ここに謝辞を申し上げたい。なお,本稿の内容・意見は筆者個人に属し,東京三菱銀行の公式見解を示すものではない。

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