学会誌のご紹介

現代ファイナンス/No.10

論文名

JGB先物市場における即時執行制度とボラティリティ-戦略的注文行動の分析に基づく人工証券市場を用いた検証-

執筆者名

副島 豊

詳 細  
No,1/2001-09
開始ページ:p3
終了ページ:p33

JGB先物市場における即時執行制度とボラティリティ-戦略的注文行動の分析に基づく人工証券市場を用いた検証-
副島 豊*(日本銀行調査統計局)

注文が短い間隔で頻繁に板に到着するような注文駆動型市場では,注文の付け合わせ方法が価格変動や市場参加者の注文行動に影響を与え得る。JGB先物市場では1998年に注文付け合わせを即時執行するシステムを導入した際,板状態やその推移が市場参加者にとって分かり難くなり,注文が意図通りに約定されない現象が以前より増加したため,短期的な価格変動が高まったと指摘されている。本稿では,即時執行により板状態の誤認が発生しやすくなった点に注目し,これが価格変動にどう影響するかを分析した。制度変更前後で市場環境が大きく異なっており,その影響を排除するためシミュレーション分析を採用した。まず,観測データからオーダーフローを復元しタイプ分けすることで,板状態に応じた戦略的注文行動の存在を確認した。次に,戦略行動に基づいて注文が発生する人工証券市場を作成し,ラグ情報に基づく注文の影響を検証した。その結果,注文意図が正しく反映されないケースが一部に発生するだけで短期的な価格変動が高まり,ビッドアスクスプレッドの拡大,取引当たりの価格インパクト上昇など,市場機能の低下に繋がることが確認された。
*本稿は,BIS・CGFS(グローバル金融システム委員会)が設置した電子取引に関するワーキンググループに日本のケーススタディの一つとして提出した論文を基に修正・加筆したものである。本稿の作成にあたっては,日経QUICK情報(株)主催のトレーディングテクノロジー研究会やMPTフォーラム例会,日本ファイナンス学会第9回大会の参加者の方々から貴重なコメントをいただいた。また,同大会の討論者である宇野淳氏(日経QUICK)からは修正にあたっての有益な助言を頂戴した。原データから注文パターンを抽出する際のデータ処理において嶋谷毅氏(日本銀行)の多大な協力を得ている。本稿の目的は現行制度の是非を論じるものでなく,市場環境ごとに適切な付け合わせ制度が存在する可能性を指摘し,制度をデザインする際の要点の一つを指摘するものである。論文の内容は意見は執筆者個人に属し,日本銀行やBIS・CGFSの公式見解を示すものではない。また,ありうべき誤りはすべて執筆者に属する。

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論文名

メインバンク介入型ガバナンスは変化したか?1990年代と石油ショック後との比較

執筆者名

広田 真一/宮島 英昭

詳 細  
No,2/2001-09
開始ページ:p35
終了ページ:p61

メインバンク介入型ガバナンスは変化したか?1990年代と石油ショック後との比較
広田 真一(早稲田大学/イェール大学 )
宮島 英昭(早稲田大学/財務省財務総合研究所 )

本稿の目的は,これまで日本企業にユニークな特性と理解されてきたメインバンクの介入によるコーポレート・ガバナンスの機能が,1990年代に入っていかに変化しているかを検討する点にある。そのために,本稿では,電機・化学・建設の3部門の上場企業のうち財務危機に陥った企業(2年連続インタレスト・カバレッジ・レシオが1未満の企業)を分析の対象にとり上げ,この財務危機企業に対して,(1)メインバンクが経営に介入しているか,(2)メインバンクの介入があった場合,それは企業経営にいかなる変化を引き起こしているかを定量的に検討した。そして,1990年代の財務危機企業に対するメインバンクの介入の分析結果を,これまでメインバンク介入型ガバナンスがもっとも典型的にワークしていたと理解されてきた石油ショック後の期間(1974~82年)の分析結果と比較した。その結果,企業が財務危機に陥った際にメインバンクが経営に介入する確率は,90年代には石油ショック後に比べて大きく低下していること,また,メインバンクが介入したとしても,経営者交代の時期の遅れ,収益の回復の遅れなど,90年代にはその介入の効果が薄れていることを示唆する事実が明らかとなった。
*本稿は,1999年日本金融学会秋期大会(東北大学),2000年日本ファイナンス学会(上智大学),一橋大学商学部セミナーで報告した原稿を,大幅に加筆修正したものである。本誌エディター,レフェリーならびに,学会の討論者の鹿野嘉昭氏,清水克俊氏からは,本稿を改訂するための詳しいコメントをいただいた。また,古賀健太郎,小西大,宮川努,横山和輝の各氏,学会・セミナーの参加者からも貴重なコメントを受けた。記して感謝の意を表したい。なお,本研究は,早稲田大学特定課題研究助成費(99A-145),早稲田大学産業経営研究所から研究助成を受けている。

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論文名

サンプル・セレクション・モデルによる社債格付けの比較

執筆者名

安川 武彦

詳 細  
No,3/2001-09
開始ページ:p63
終了ページ:p83

サンプル・セレクション・モデルによる社債格付けの比較
安川 武彦((株)マーケティング・エクセレンス )

本稿では,R&IとMoody’sという2種類の格付けの共通決定要因を比較した。それぞれ,推定に用いるサンプルが異なるため,サンプル・セレクション・モデルを使ってサンプルの違いによるバイアスを補正した。セレクション・モデルの当てはめによれば,比較的規模が大きく市場からの資金調達比率が大きい企業がMoody’sから格付けを付与されやすいという結果が得られた。さらに,格付け分析モデルの推定結果によれば,両社に共通する格付け決定要因はその反応の仕方も含めると共通しているとはいえなかった。R&Iは企業のリスクバッファーとなるストック面を重視しており,Moody’sは株式および社債マーケットでの評価とフロー面の影響が大きいことがわかった。これは,企業信用力の判定において重要となる共通変数の要因効果がそれぞれ違うことを意味する。また,格付けの判定基準と解釈可能なしきい値パラメータとダミー変数は,サンプルの違いを考慮しても二つの格付けで有意に異なり,それぞれの格付け符号の持つ意味が違うことが計量的に示された。*本論文は,筑波大学大学院(経営システム科学)における修士論文の一部を加筆・修正したものである。懇切丁寧に指導いただいた,椿広計助教授,河合忠彦教授,大澤幸生助教授に感謝する。また,本稿の作成にあたり,小林正人教授(横浜国立大学),山下智志助教授(統計数理研究所),レフェリー及び編集者の新井富雄氏から,多くの有益なコメントをいただいた。ここに記して感謝したい。なお,本論文の内容・意見は,筆者個人に属し,筆者の所属先の公式見解ではない。

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