学会誌のご紹介

現代ファイナンス/No.16

論文名

合併比率と株価:アービトラージ・スプレッドの分析

執筆者名

井上 光太郎/加藤 英明

詳 細  
No,1/2004-09
開始ページ:p3
終了ページ:p21

合併比率と株価:アービトラージ・スプレッドの分析
井上 光太郎(名古屋市立大学大学院経済学研究科)
加藤 英明(神戸大学大学院経営学研究科)

本研究は,1990年から2002年までの日本の上場企業間の合併をサンプルとして,合併企業の株価に関する株式市場の効率性を検証している。合併比率発表日から合併日までの期間,合併企業株価は合併比率に基づく理論株価から乖離しており,その乖離はファンダメンタルズでは説明出来ず,株式貸借市場の不完全性や流動性不足によってアービトラージが制約されることに原因があることを確認した。しかし,このような乖離に基づくアービトラージ取引からは,アービトラージの制約要因を調整すると有意な超過リターンは得られなかった。このことから,合併企業の株価の合併比率に基づく理論株価からの乖離は存在するものの,それは主として市場の不完全性に起因したアービトラージの限界により発生したものであり,市場が整備されることにより効率性が高まることを示唆している。
*本論文作成に当り,日本経済研究奨励財団からの研究助成を受けている。東京証券取引所の広田真人先生(現在、都立大学),日本証券金融株式会社からは逆日歩データを提供して頂いた。本誌編集者の谷川寧彦先生(早稲田大学),本誌レフェリー,鈴木一功先生(中央大学),八重倉孝先生(法政大学)からもそれぞれ貴重なコメントを頂いた。ここで謝辞を表したい。

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論文名

証拠金とオプション価格:SPANの導入によるインプライド・ボラティリティへの影響

執筆者名

馬 文傑

詳 細  
No,2/2004-09
開始ページ:p23
終了ページ:p42

証拠金とオプション価格:SPANの導入によるインプライド・ボラティリティへの影響
馬 文傑(大阪大学大学院経済学研究科博士後期課程)

本稿は,2000年10月30日に日経225指数オプションの証拠金計算法が, SPAN(Standard Portfolio Analysis of Risk)に移行したことに着目し,制度変更によるボラティリティ・スマイルの構造変化を分析した。分析結果は以下のとおりである.SPANの導入による証拠金の軽減が,in-the-moneyとout-of-the-moneyオプションにおけるインプライド・ボラティリティの差hvの平均と分散の減少をもたらした。また,マネネスによるビッドアスク・スプレッドの違いhsp及び取引量の違いhmはそれぞれhvと正の相関関係があり,さらにGranger意味でhspからhvへの因果関係があることも確認した。これらは、オプションの取引コストや流動性リスクがボラティリティ・スマイルに影響を及ぼしていることを示唆する。
*本稿は2003年6月の日本ファイナンス学会での報告論文を改訂したものです。改訂の際全般に渡ってレフェリー,編集者の新井富雄氏,学会討論者であるMTECの正田智昭氏から貴重なコメントを頂きました。また本稿の作成に当たって,平素ご指導してくださる大阪大学大学院経済学研究科の仁科一彦先生,福田祐一先生から貴重な意見と親身な指導を賜りました。また,大阪大学社会経済研究所の池田新介先生,大阪大学大学院経済学研究科の大屋幸輔先生,早稲田大学商学部の谷川寧彦先生,立命館大学経済学部の秦劼先生,大阪大学大学院経済学研究科の勝田英紀氏,万軍民氏及びその他の資産価格研究会に参加している皆様からも大変有益なアドバイスを頂きました。記して御礼を申し上げます。なお,それらのコメントに十分お応えすることが出来なかった点につきましては,今後の課題とさせていただくとともに,本文における誤りは,すべて筆者の責任に帰すこととする。

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論文名

世代間の生涯所得格差とオイラー方程式の集計上の誤謬

執筆者名

平田 憲司郎

詳 細  
No,3/2004-09
開始ページ:p43
終了ページ:p61

世代間の生涯所得格差とオイラー方程式の集計上の誤謬
平田 憲司郎(大阪大学大学院経済学研究科博士後期課程)

本論文では,世代間に生涯所得の格差がある場合に,総消費量を用いて測った異時点間の限界代替率に含まれる集計上の誤謬を分析し,日本のデータから実証的に計測している。資産市場のリスクシェアリングが十分に機能している場合,この種の実証分析で通常仮定される,時間について分離可能な相対的危険回避度一定(CRRA型)の生涯効用関数のもとでは,経済を構成する主体の異時点間の限界代替率は主体間の生涯所得の差に依存せず,したがって総消費量を用いて限界代替率を測ることができる。一方、世代重複モデルでは,経済を構成する世代の生涯所得分布が変化する場合,時間について分離可能なCRRA型の生涯効用関数を用いたとしても,総消費量を用いて測った異時点間の限界代替率は,経済を構成する世代の生涯所得分布の変化に依存して決まり,代表的個人モデルに基づいた異時点間の限界代替率には集計上の誤謬が含まれる。本論文では,集計上の誤謬を考慮することで代表的個人モデルの時間選好率が見せかけ上負の値をとることと,安全資産利子率パズルが解消する可能性のあることを示している。
*本論文は2000年度大阪大学大学院経済学研究科に提出した修士論文を改訂したものである。本誌の匿名レフリーからいただいた貴重なコメントが本論文の改訂に大きく資している。また,本論文の執筆にあたっては,本多佑三先生(大阪大学大学院経済学研究科),池田新介先生(大阪大学社会経済研究所),齊藤誠先生(一橋大学大学院経済学研究科),言美伊知朗先生(立命館大学経済学部),橋本賢一氏(大阪大学大学院経済学研究科)より大変貴重な助言をいただいた。また,CIRJE-TCER第3回マクロコンファレンスにおいて,討論者の新谷元嗣先生(ヴァンダービルト大学経済学部),林文夫先生(東京大学大学院経済学研究科)をはじめとする参加者各位から大変有益なコメントをいただいた。記して感謝を表したい。

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