学会誌のご紹介

現代ファイナンス/No.17

論文名

上場・廃止基準が新規公開費用に及ぼす影響:新興三市場の比較

執筆者名

鈴木 健嗣

詳 細  
No,1/2005-03
開始ページ:p3
終了ページ:p25

上場・廃止基準が新規公開費用に及ぼす影響:新興三市場の比較
鈴木 健嗣(一橋大学大学院博士課程)

市場間競争は新興市場の上場・廃止基準の設定に大きな影響を与えている。しかし,こうした基準が発行企業に与える影響についての分析は少ない。本稿の目的は,上場・廃止基準の違いが発行企業の新規公開費用(引受手数料,公開価格のディスカウント)に与える影響について,2000年から2002年までに新興三市場で公開した企業380社を対象に検証することにある。主要な結果は以下のとおりである。(1)新興三市場で新規公開費用が異なっている。(2)マザーズやナスダック・ジャパンで公開した企業が支払う引受手数料はジャスダックで公開した企業と比べて高い。(3)ナスダック・ジャパンのグロース基準で公開した企業はその他の市場で公開した企業より初期収益率が高い。以上の結果は,上場・廃止基準が厳しい市場で公開した企業ほど全体の新規公開費用が低くなることを意味しており,発行企業の市場選択や市場の基準設定に対し示唆を与える結果といえる。
*本稿は野村證券寄付講義研究助成金及び,一橋大学商学部21世紀COEプログラム「知識・企業・イノベーションのダイナミクス」若手研究員に対する助成金を受けて行われた研究の一部である。本稿において,花枝英樹先生(一橋大学),小西大先生(一橋大学),忽那憲治先生(神戸大学),佐々木隆文氏(日興フィナンシャル・インテリジェンス)から論文作成に関する有益なご助言を,高橋正好氏(野村證券)からは実務的な観点から大変貴重なアドバイスを頂いた。また,本誌編集者の谷川寧彦先生(早稲田大学)とレフェリーからは検証における有益なご指摘を頂いた。記して御礼申し上げます。なお,本稿における誤りのすべては,筆者の責に帰するものであります。

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論文名

劣後債による市場規律と公的介入

執筆者名

豊福 建太

詳 細  
No,2/2005-03
開始ページ:p27
終了ページ:p46

劣後債による市場規律と公的介入
豊福 建太(東京大学大学院経済学研究科博士課程)

銀行規制に関する新しい流れとして,劣後債による市場規律を活用するという動きがある。これは,規制当局だけでなく投資家にも銀行の情報を収集させることで,より効率的に銀行を規律付けることを狙ったものである。そこで重要になってくるのが,銀行規制の中で規制当局と投資家がどのような役割を果たすべきかという点である。本論文では,このテーマについて,金融契約理論や情報の経済学を用いて分析する。そして,契約が不完備なために銀行のリスクテイクの可能性がある状況では,銀行の情報が劣後債の金利に正確に反映するときよりも正確に反映しない時の方が,市場での価格決定の歪みを利用することでかえって効率的に銀行を規律付けられることを示す。さらに,規制当局がモニタリングして情報開示を行うことが,場合によっては効率的でなくなることを導く。
*本論文を作成するに当たり,柳川範之先生(東京大学),酒井良清先生(横浜市立大学),広瀬純夫先生(信州大学),および本ジャーナルの匿名のレフェリーと編集者の谷川寧彦先生(早稲田大学)から有益なコメントを頂いたことに感謝したい。言うまでもなく,本稿における誤りは全て筆者のものである。

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論文名

銀行部門の脆弱性と貸出行動-ダイナミックモデルによる分析

執筆者名

石川 大輔

詳 細  
No,3/2005-03
開始ページ:p47
終了ページ:p62

銀行部門の脆弱性と貸出行動-ダイナミックモデルによる分析
石川 大輔(大阪大学大学院経済学研究科博士後期課程)

本論文は,銀行の異時点間の最適化行動により導出された動学的なオイラー方程式を推定することにより,1990年以降における銀行部門の・脆弱性と銀行貸出との関連を分析したものである。本論文による推定結果は,1996年9月以降において,銀行部門の脆弱性が貸出を抑制していたという仮説を支持している。さらに本論文では,推定結果を用いて,タイムスパンを四半期とするダイナミック・シミュレーションを行った。その結果,第一に,1998年第1四半期と1998年第3四半期において,いわゆる「貸し渋り」が発生していたこと,第二に,1998年第4四半期から1999年第1四半期にかけて,資本の増加による脆弱性の改善が貸出の落ち込みを緩和していたこと,第三に,1999年第2四半期以降の貸出の落ち込みは,脆弱性の悪化を反映しているものではないこと,を明らかにした。
*本稿の作成にあたっては,本誌エディターの浅野幸弘氏(横浜国立大学経営学部),匿名レフェリー,並びに安孫子勇一氏(近畿大学経済学部),井澤裕司氏(立命館大学経済学部),小川一夫氏(大阪大学社会経済研究所),相馬利行氏(京都学園大学経済学部),中川龍一氏(関西大学経済学部),堀江康煕氏(九州大学大学院経済学研究院),宮越龍義氏(筑波大学社会工学系)より,非常に有益なコメントを頂いた。特に,指導教官である筒井義郎氏(大阪大学社会経済研究所)からは,論文全体に関して詳細な指導を受けた.ここに感謝の意を記したい。尚,本論文は,2003年度日本金融学会秋季大会(滋賀大学)にて報告された。ただし,本論文中で示された誤りは,言うまでもなく全て筆者個人に帰するものである。

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論文名

わが国上場企業の自社株買いに関する実証研究-フリーキャッシュフロー仮説の検証-

執筆者名

牧田 修治

詳 細  
No,4/2005-03
開始ページ:p63
終了ページ:p81

わが国上場企業の自社株買いに関する実証研究-フリーキャッシュフロー仮説の検証-
牧田 修治(りそな総合研究所)

本論文の目的は,わが国上場企業の自社株買いがフリーキャッシュフロー仮説と整合的であるかどうかということを検証することである。本論文では,(1)自社株買いのアナウンスメントは,成長性や収益性の限界に直面し,フリーキャッシュフローが豊富な企業によって行なわれている,(2)アナウンスメント直後にはプラスの超過収益率が生じる,そして,(3)アナウンスメント後にはフリーキャッシュフローが減少し設備投資は増加しない,ということが明らかになった。フリーキャッシュフロー仮説と整合的な結果である。自社株買いは,企業経営の非効率化を回避する財務手段の一つとして機能していると評価できる。日本企業は,長らく1980年代後半のフリーキャッシュフローに惹起された過剰投資の調整に悩まされてきたが,自社株買いは,こうした非効率的な投資を抑制する新たな財務手段として機能していることが示された。
*本論文の作成にあたり,松浦克己先生(広島大学大学院),随清遠先生(横浜市立大学),浅野幸弘先生(本誌編集者・横浜国立大学),匿名レフェリー,ならびに日本ファイナンス学会,金融学会,MPTフォーラム参加者の方々から有益なコメントを頂きました。記して感謝いたします。また,本研究は,りそな信託銀行出向期間中に進められたことを明記するとともに,同社に対して記して謝意を表します。

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論文名

償還条項付きアメリカンオプションの評価について

執筆者名

瀬古 進/鈴木 淳生/澤木 勝茂

詳 細  
No,5/2005-03
開始ページ:p83
終了ページ:p96

償還条項付きアメリカンオプションの評価について
瀬古 進(南山大学大学院経営学研究科博士後期課程)
鈴木 淳生(南山大学大学院数理情報研究科博士後期課程)
澤木 勝茂(南山大学数理情報学部)

本論文では,償還条項付きアメリカンオプションの評価について議論する。Kifer[2000]はこのようなオプションをゲームオプションと呼んでいるが,既存の金融商品では償還条項付き転換社債が償還条項付きアメリカンオプションの例であろう。アメリカンオプションの価格は,早期行使プレミアムの部分だけヨーロピアンオプションの価格より高く評価されるように,償還条項付きアメリカンオプションはアメリカンオプションより償還の権利の部分だけ安く評価される。これを買い戻し割引額と呼ぶ.本論文では,償還条項付きアメリカンコールの価格は,ヨーロピアンコールの価格から買い戻し割引額を差し引いた値に等しいことを示す。さらに二項モデルによる数値例では,償還条項付きアメリカンプットの価格を計算し,通常のアメリカンプットおよびヨーロピアンプットの価格と比較・検討する。
*本稿の作成にあたり,飯原慶雄先生,ならびにレフェリーの先生から有益なコメントを頂きました。記して感謝いたします。本研究に対して平成16年度文部科学省科学研究費補助金より一部助成を受けた。

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