学会誌のご紹介

現代ファイナンス/No.22

論文名

Fama-Frenchファクターモデルの有効性の再検証

執筆者名

久保田 敬一/竹原 均

詳 細  
No,1/2007-09
開始ページ:p0
終了ページ:p0

Fama-Frenchファクターモデルの有効性の再検証
久保田 敬一(武蔵大学経済学部)
竹原 均(早稲田大学大学院ファイナンス研究科)

本研究は,Fama and French[1993]で提案されたファクターモデルにおいて導入されたSMBファクター,およびHMLファクターを,米国実証研究における標準的方法に基づいて日本データについて測定し,その特性を検証するとともに,日本市場におけるFama-French3ファクターモデルの有効性,頑健性を再検証する.1977年9月から2006年8月までの29年間のデータを使用して新たに分析を行った結果,HMLファクターは,現在でも期待リターンと統計的に有意な相関関係を持つことが明らかとなった.またSMBファクターに関しては,小型株効果が長期で安定的ではないことを原因として,期待リターンとの関係も不安定であった.しかしながら,アセットプライシングの実証分析上,不要とは判断すべきでないことを示唆する証拠も主成分分析の結果から得た.次に我々はスタイル分析を実施することにより,証券会社が情報提供し,実務界で広く利用されているスタイルインデックスと,SMB,HMLファクター構築の過程で計算されるFama-French6ベンチマークの性質が大きく異なることを示した.この結果,スタイルインデックスを代用して計算した擬似SMB, HMLではなく,Fama/French[1993]において提案された方法に従ってSMB,HMLファクターを測定することが,実証研究結果の国際比較可能性を確保するための必要条件であることを最後に主張する.

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論文名

上限金利規制の是非:行動経済学的アプローチ*

執筆者名

筒井 義郎/晝間 文彦/大竹 文雄/池田 新介

詳 細  
No,2/2007-09
開始ページ:p0
終了ページ:p0

上限金利規制の是非:行動経済学的アプローチ*
筒井 義郎(大阪大学社会経済研究所)
晝間 文彦(早稲田大学商学学術院)
大竹 文雄(大阪大学社会経済研究所)
池田 新介(大阪大学社会経済研究所)

本論文は,上限金利規制の是非を理論的に検討し,消費者金融の借り手,債務整理者,消費者金融未利用者を対象としたアンケート調査の結果を用いて,実証的に検討する.本稿の特徴は,従来の産業組織的視点に加えて,借り手の双曲割引・衝動性という行動経済学的視点と情報の非対称性の視点から分析していることである.双曲割引を持つ人は計画の時間非整合性に直面するので,その借り入れを制約する政策が是認される.アンケート調査の結果から,高双曲割引や自信過剰は消費者金融からの借り入れを促進し,債務整理に陥る原因であることを明らかにした.しかし,アンケート調査の結果は,消費者金融市場の情報の非対称性が強いことを示唆している.もしその結果,消費者の信用力が識別されないプーリング均衡が成立しているとし,信用割当が重要な影響を持たなければ,上限金利規制は基本的に望ましい効果を持たない.しかし,信用割当が重要な影響を持つ場合や,シグナリング均衡が成立している場合には,上限金利規制が高双曲割引の人を排除するという意味で望ましい効果を持つ可能性がある.しかし,この場合にも,金利規制は,規制が望ましくない人をも規制してしまうという副作用があることに注意が必要である.たとえば,上限金利規制によって,消費者金融市場を崩壊させる政策が望ましいかどうかは,高双曲割引の人の比率に依存するが,高双曲の人は国民の約2割から3割,消費者金融の既利用者では約3割から4割であると推測される.さらに本論文は,消費者金融会社が,約定金利に加え て取立ての水準を操作する「取立て均衡」を考察した.もし,借り手が,消費者金融会社が行うであろう取立て水準の期待値を過小に評価していれば,取立ては借り手の厚生を悪化させる可能性がある.この取立て均衡では,約定金利で表示した借り入れ需要関数は「後方屈折(backward bending)」になる可能性があり,借り手は高金利で過剰な借り入れをしたと後悔することになる.過小評価を導く原因としては,借り手の自信過剰が考えられる.実証分析は,借り入れ需要関数は金利が低い領域では右下がりであるが,高い領域では垂直であること,取立てにあった人は自信過剰の程度が有意に高いことを示した.最後に,貸し手が寡占であれば,上限金利規制が是認される可能性があるが,実証分析の結果,寡占市場であることを支持する結果は得られなかった.

*本稿の旧稿は,MEW(Monetary Economics Workshop)で報告された.本稿が用いている消費者金融利用者・債務整理者を対象とするアンケート調査の実施については,堂下浩氏(東京情報大学)にお世話になった.また,堂下氏は,氏が実施したアンケート調査結果の利用を許可してくださった.法律関係の経緯については,神吉正三氏(龍谷大学)から ご教示を受けた.内田浩史氏(和歌山大学),堀田真理氏(東洋大学),櫻川昌哉氏(慶應義塾大学),池尾和人氏(慶應義塾大学),福田充男氏(京都産業大学),平山健二郎氏(関西学院大学)からは,コメントをいただいた.高坂勇毅君はリサーチアシスタントとして推定作業を担当してくれた.記して,これらの 全ての方々に感謝申し上げたい.本研究は,文部科学省の科学研究費補助金(基盤A,17203025)と大阪大学21世紀COEプログラム「アンケート調査と実験による行動マクロ動学」から資金援助を受けている.

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論文名

競争状況下でのリアル オプションと柔軟性の罠*

執筆者名

今井 潤一/渡辺 隆裕

詳 細  
No,3/2007-09
開始ページ:p0
終了ページ:p0

競争状況下でのリアル オプションと柔軟性の罠*
今井 潤一(東北大学大学院経済学研究科)
渡辺 隆裕(首都大学東京大学院社会科学研究科)

本論文では,従来のリアルオプションの枠組みにゲーム理論を取り入れたモデルを構築し,不確実性下における競合企業の意思決定とその柔軟性の価値について分析を行う.通常,不確実性下において意思決定の柔軟性を持つことは企業にとって常に好ましいと考えられているが,競争状況下では必ずしもそれは言えないことが示される.本論文では,1期間後の需要が不確実で,2企業が存在する2時 点の簡単な投資競争モデルを考え,競争的優位性が存在する一方の企業が,その優位性として意思決定の柔軟性を有するがゆえに,相手よりも不利になってしまう「柔軟性の罠」と呼ばれる状況を考察する.
 具体的にはゲーム理論を利用して,2企業の投資競争を考えた場合に起こる均衡選択の問題を指摘する.このとき一つの企業に有利な均衡が選択されるような 仮定を導入し,「柔軟性の罠」が発生することを例証する.さらに,柔軟性の罠が起きる一般的な投資費用の条件を示す.また他の投資費用の範囲では,どのような結果となるかも示す.最後に,1つの企業に有利な均衡が選ばれるとする仮定は,ゲーム理論の均衡選択理論を用いると,企業が投資した時の利得が僅かながら高いとすることによって導かれることを示す.

*本研究は,科学研究費補助金(基盤研究(C),課題番号17510128)の支援を受けている.研究代表者の古川浩一教授に感謝する.また,本論文を完成するにあたり査読者及び編集者から様々なアドバイスをいただいた.ここに感謝の意を表したい.

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論文名

注文駆動型市場におけるIR活動のスプレッド要因への影響*

執筆者名

生方 雅人/坂和 秀晃

詳 細  
No,4/2007-03
開始ページ:p0
終了ページ:p0

注文駆動型市場におけるIR活動のスプレッド要因への影響*
生方 雅人(大阪大学大学院経済学研究科)
坂和 秀晃(大阪大学大学院経済学研究科)

本稿では,東証のアクション・プログラムに基づいた四半期IR開示の効果を検証する.東証の四半期IR要請の目的は,四半期情報の開示により市場の透明性を増すことである.IR要請が有効ならば,その後の市場取引におけるトレーダ間の非対称情報の度合いは減少するという仮説が成立する.仮説を検証するため,ビッド・アスクスプレッドの要因分解を行い,逆選択コストと注文執行コストを推定する.推定された逆選択コスト要因については,四半期IR導入前の期間より導入後の期間で減少することを確認する.また効果の持続性について調べるため,逆選択コストの推移を見る.注文執行コストに関しても同様の分析を行う.結果は,以下の2点である.第一に四半期IRによる逆選択コスト減少の効果は,平均的に10~20営業日間有効である.第二に,売買高が多い銘柄群を除いて,注文執行コストは固定的である.

*本稿の作成に当り,大屋幸輔教授(大阪大学),筒井義郎教授(大阪大学)のご指導を頂いた.また,本誌編集者の谷川寧彦教授(早稲田大学)には,2006年度日本ファイナンス学会の報告に際して,討論者として論文全体に関して,数多くの有益な指摘を頂いた.また,匿名レフェリーの方にも,数多くの有益な指摘を頂いた.MEW研究会の報告においても,安孫子勇一教授(近畿大学),内田浩史准教授(和歌山大学),福田充男教授(京都産業大学)をはじめとする出席者の方々に,様々なアドバイスを頂いた.記して,感謝の意を表したい.もちろん,本稿に含まれる誤りは全て筆者達の責である.

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