学会誌のご紹介

現代ファイナンス/No.27

論文名

日本企業の流動性資産保有に関する実証研究―上場企業の財務データを用いたパネル分析―

執筆者名

堀 敬一/安藤 浩一/齊藤 誠

詳 細  
No,1/2010-03
開始ページ:p3
終了ページ:p24

日本企業の流動性資産保有に関する実証研究―上場企業の財務データを用いたパネル分析―
堀 敬一(立命館大学経済学部)
安藤 浩一(日本政策投資銀行設備投資研究所)
齊藤 誠(一橋大学大学院経済学研究科)

本論文は,日本の上場企業の財務諸表から構築したパネル・データを用いて,1980年代から2000年代前半にかけて企業の流動性資産(現預金)の保有行動がどのように変化してきたのかを実証的に検証している.1990年代までは一貫して,成長性の高い企業が流動性資産を保有しようとする行動が観察される.1990年代半ばまでは,製造業を中心として銀行借入や企業間信用などの資金調達手段が流動性資産保有と強い代替関係にあったが,金融危機を含む1990年代後半には,そうした代替関係が弱まった.金融緩和基調となった2000年代前半には,それまで流動性資産保有に影響を与えていた要因が,もはや強い影響を与えなくなった.また,1980年代から1990年代にかけての推計結果では,銀行の影響力やメインバンク制度の役割の変化が明らかにされている.

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論文名

わが国企業の現金保有とペイアウト政策

執筆者名

中嶋 幹/米澤 康博

詳 細  
No,2/2010-03
開始ページ:p25
終了ページ:p40

わが国企業の現金保有とペイアウト政策
中嶋 幹(日興フィナンシャル・インテリジェンス株式会社社会システム研究所)
米澤 康博(早稲田大学大学院ファイナンス研究科)

本稿では,バブル崩壊以降のわが国企業の流動性保有について,Kim/Mauer/Sherman〔1998〕の理論モデルから得られる示唆,即ち「手元流動性保有水準は,将来,資金制約を受ける可能性がある企業が設備投資を行う際の余計なトランザクションコストを節約して,企業価値最大化の観点からみて合理的な水準に決定される」を実証的に検討するものである.分析の結果,2002年以降の後期では企業の手元流動性保有比率は,資金制約の程度や設備投資需要等によってある程度合理的に説明されることが明らかとなる一方,2001年以前の前期では手元流動性の保有は必ずしも合理的に決定されない可能性が見てとれる.日本企業の手元流動性保有比率は高い水準にあったことからも配当支払いが十分でなかったことを示唆しているのかもしれない.

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論文名

日本企業の事業多角化と内部資本市場の役割

執筆者名

土村 宜明/杉浦 康之/佐々木 隆文/米澤 康博

詳 細  
No,3/2010-03
開始ページ:p41
終了ページ:p57

日本企業の事業多角化と内部資本市場の役割
土村 宜明(日本ファイナンシャル・プランナーズ協会)
杉浦 康之(日興フィナンシャル・インテリジェンス)
佐々木 隆文(名古屋市立大学大学院経済学研究科)
米澤 康博(早稲田大学大学院ファイナンス研究科)

本稿は,日本企業の多角化が効率的か,内部資本市場におけるストックでみた資金配分が効率的かを実証的に分析した.効率性を単に資本利潤率やトービンのqといった資本利潤周りに対する効果から評価するのではなく,従業員をも含めた成果である付加価値に対する効果から評価した点に本稿の特徴がある.まずセグメント数自体,およびセグメント間投資機会分散度が目標の企業の付加価値に与える効果についてみると,必ずしも有意水準は高くないが,マイナス効果をもつことがわかった.この結果は,日本企業ではセグメント間の投資機会格差を拡大させるようなナイーブな事業の多角化は効率的ではないことを示唆している.他方で,内部資本市場によって高投資機会セグメントへの資金配分を大きくするような配分効果は有効であることが確認された.以上の結果は,セグメントの投資機会データとして類似企業群のトービンのqを用いる場合でも,より直接的にセグメントのキャッシュフローデータを用いる場合にでも同様に得られており,頑強な結果と言える.

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