学会誌のご紹介

現代ファイナンス/No.32

論文名

我が国のAsset Growthと株式リターン-Asset Growthの実績リターンと期待リターンに与える影響-

執筆者名

吉野 貴晶/斉藤 哲朗

詳 細  
No,1/2012-09
開始ページ:p3
終了ページ:p31

我が国のAsset Growthと株式リターン-Asset Growthの実績リターンと期待リターンに与える影響-
吉野 貴晶(大和証券株式会社投資戦略部)
斉藤 哲朗(大和証券株式会社投資戦略部)

本論文は我が国の株式市場において,Asset Growthと株式リターンの関係を実証的に明らかにする.分析対象には,実現したリターンだけでなく,投資家が期待するリターンも用いる. 分析の結果,米国と同様に我が国でも, Asset Growthと翌年度の実績リターンとの間における有意に負となる関係が,特に強いことが示される.しかし,当年度の実績リターンや,当年度と翌年度の期待リターンに対しては,有意に正となる関係が見られる.そこで,モデルを拡張して,業績水準もコントロール変数に加えた分析を行うと,実績リターンに対してAsset Growthの負に有意な関係が失われる.企業の資本調達は,将来の株式の下落と直接に関係するのではなく,経営者が資本調達しても企業の収益を高めることができれば,将来の株式のリターンの下落につながらないことが示唆される.

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論文名

新規株式公開企業による調達資金使途に関する分析

執筆者名

中嶋 幹/小西 大/鈴木 健嗣

詳 細  
No,2/2012-09
開始ページ:p33
終了ページ:p54

新規株式公開企業による調達資金使途に関する分析
中嶋 幹(一橋大学大学院商学研究科博士後期課程)
小西 大(一橋大学大学院商学研究科)
鈴木 健嗣(神戸大学大学院経営学研究科)

新規株式公開(IPO)の主要な目的の一つは資金調達であるが,調達資金の使途に関する研究は限られている.そこで本稿では,Kim/Weisbach [2008]に依拠して,2000-2007年にJASDAQで公開した企業を対象に,IPOで調達した資金の使途について分析を行う.分析の結果,IPOによる調達資金は在庫投資,設備投資,R&D,手元流動性保有を促進し,総資産増大に寄与するが,長期有利子負債の償還には充当されないことが確認された.以上の結果は,IOPによる調達資金は主として投資に充当され,レバレッジ調整には用いられないことを示唆している. また本稿では,IPOによる資金使途の特殊性を析出するため,公募増資(SEO)の資金使途についても同様の分析を行った.その結果,SEOは短期的には在庫投資及び手元流動性保有を促進することが確認されたが,設備投資,R&Dに関しては有意な影響は認められなかった.

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論文名

マクロ経済と公的年金財政-公的年金積立運用の視点から-

執筆者名

本多 俊毅

詳 細  
No,3/2012-09
開始ページ:p55
終了ページ:p85

マクロ経済と公的年金財政-公的年金積立運用の視点から-
本多 俊毅(一橋大学大学院国際企業戦略研究科)

マクロ経済モデルと資産価格モデルを構築し,積立金運用の観点から,公的年金財政の特徴を分析した.長期債利回りには市場参加者の経済予想が反映されるため, 長期債利回りと賃金上昇率の間には安定的な関係は必ずしも期待できない. 長期債利回りの設定によって財政の維持可能性の判断が大きく左右されてしまうため,対GDP比でマクロ経済との相対的な関係に注目することが有効である.対GDP比で考えた場合,給付抑制策が景気悪化時には十分に機能しない.これに比べると,収入部分は経済動向の影響を受けにくいと言えるが,基礎年金給付1/2の国庫負担が国家財政に与える影響が心配される.2000年改正による既裁定年金額のスライド方法の変更は,デフレ経済下では給付抑制効果が限定的である.2004年改正によるマクロ経済スライド調整の実施先送りの影響は,これまでのところさほど大きくないが,今後その影響が顕在化していくことが危惧される.

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